米テレビ局NBCがユーチューブに動画の削除依頼(2006年9月)

YouTubeと著作権

ネット上で動画を共有するサイト「ユーチューブ(YouTube)」が話題を集めている。見たい映像がいつでも見られて、利用者には便利だが、著作権保護など課題も多い。米地上波テレビ局のNBCは、無断投稿されたテレビ番組の動画について、ユーチューブに削除依頼を行った。

見逃したシーンを再生

お笑いタレントが、相方の不祥事を涙ながらに謝罪する姿、ボクシングの亀田興毅選手のダウンシーン--。テレビで見逃した話題の場面を、インターネットで後から見られる米国の動画共有サイト「ユーチューブ(YouTube)」は、日本でもすっかり有名になった。

日本でも大人気

世界中から毎日6万5000本以上のビデオがアップロード(投稿)され、ユーザーは1億人を超えるという。日本のユーザーも多く、インターネット調査「gooリサーチ」の調査(8月)によると、日本のネットユーザーの2割程度がユーチューブ(YouTube)を見るか、ビデオを投稿した経験があるといい、英語サイトにもかかわらず、米本国並みの人気になっている。

テレビ番組が視聴できる

何より、サイトを見れば、日本のテレビ番組が相当数見つかることから、日本からのアクセスの多さは一目瞭然だ。日本のテレビ番組を編集したとみられるものが、常に閲覧数上位を占める。

極楽とんぼの山本圭壱の吉本解雇
加藤浩次の謝罪映像にアクセス殺到

7月、お笑いコンビ「極楽とんぼ」の山本圭壱が不祥事で吉本興業を解雇された事件では、テレビ番組で相方の加藤浩次が謝罪した映像に日本からアクセスが殺到し、約300万回再生されたという。

著作権侵害

音楽も無断使用

ただ、見たい映像が好きなときに見られるというテレビの新たな可能性を示す一方、著作権侵害が放置されていると指摘されている。投稿映像の多くがテレビ番組そのものや、BGMの音楽を無断で使用しているからだ。こうした魅力と危うさが同居するユーチューブ(YouTube)とはどんなサイトで、なぜこれほどの人気になったのだろうか。

サムネイルをクリック

サイトを開くと、ロゴとともにまず現れるのは「ブロードキャスト・ユアセルフ」(あなた自身を放送しよう)の文字。その下にずらりと並んだサムネイル(縮小画像)をクリックすると動画が再生される。

視聴も投稿も無料
ホームビデオで撮影した面白映像

誰でも手持ちの動画を登録し、インターネットに公開して他の人たちに見せることができ、見るのも投稿するのも無料だ。冒頭の文言通り、プロが作ったテレビ番組だけではなく、個人がホームビデオで撮影したとみられる1分前後の「面白映像」も多い。

創業者はチャド・ハーリーとスティーブ・チェン
2人ともペイパルの元社員

ユーチューブ(YouTube)は、シリコンバレーの一角のカリフォルニア州サンマテオに2005年2月に設立された。2人の創業者、チャド・ハーリーCEO(最高経営責任者)が29歳、スティーブ・チェンCTO(最高技術責任者)が27歳で、ともに米ネット決済サービス会社「ペイパル」の立ち上げ時からの社員だった。

自宅で起業
パーティーで撮ったビデオを友達に配る

動画共有サイトをビジネスに選んだのは、「パーティーで撮ったビデオを友達に配るのにいい方法がなかった」ためという。自宅ガレージで事業を始めたという正統派シリコンバレー・ベンチャーである。

コメントが書ける

そのサービスは「ユーザーが面白いビデオを投稿し、他のユーザーと共有する」というものだ。ビデオ投稿に対して他のユーザーがコメントを書き込んだり、ユーザー同士でグループを作る機能もある。

コンシューマー・ジェネレーテッド・メディア

ユーチューブ(YouTube)は、「コンシューマー・ジェネレーテッド・メディア」(CGM、消費者生成メディア)の仕組みを最もよく体現した企業だと言われる。CGMは、ユーザーの参加によってコンテンツが作られていくメディアをいう。「ウェブ2・0」と呼ばれるインターネットの新時代の特徴の一つ。

口コミ(クチコミ)サイト

消費者生成のコンテンツが集まることによってクチコミサイト(口コミサイト)のように、新たな参加者を引き寄せる仕組みがうまく機能している例といえる。

動画共有サイトのなかでも際立つ特徴

数多い動画共有サイトのなかでも、当初からいくつか目立った特徴を持っており、ユーザーの支持を集めた。

ブログとの連携
幅広い動画形式に対応

すなわち、ブログとの連携(親和性)▽投稿できる動画形式の幅広さ▽操作の簡単さ▽日本語など英数字以外の文字も表示できる--などである。特に、ブログに簡単に動画を追加できる機能が人気を集め、2006年末の本格サービス開始からユーザーが急増した。

著作権者から削除依頼相次ぐ

テレビ局が消去を要請

しかし、今年2月、事件が起きた。米大手テレビネットワーク(テレビ局)のNBCが、ユーチューブ(YouTube)に掲載されたビデオが著作権の侵害にあたるとしてサイトからの削除を要請したのだ。

人気娯楽番組「サタデーナイト・ライブ」の投稿

問題となったのは人気娯楽番組「サタデーナイト・ライブ」の1コーナーで、無断で投稿され数百万回閲覧されたという。これは、大手テレビがユーチューブ(YouTube)に対して起こした最初のアクションで、メディアでも大きく報じられた。

「YouTube」の名が一躍有名に

ユーチューブ(YouTube)はネットの外でも一躍有名になり、同時に、投稿ビデオの著作権侵害の問題がクローズアップされた。音楽の違法コピーで大問題となった「ナップスター」の再来との論調が高まった。ナップスターは1999年にファイル共有(P2P)技術をひっさげて登場、急成長したが、CDからの違法コピーが多かったことからレコード業界に訴えられて敗訴し、03年に消滅(名称は他企業が買収)した。

著作権侵害で訴訟も

ユーチューブ(YouTube)は3月からビデオの長さを1本10分間までに制限したが、目に見える効果にはつながっていない。米国ではその後、撮影したビデオを無断使用されたとするジャーナリストから著作権侵害訴訟も起こされている。

ナップスターと異なる道

では、ユーチューブ(YouTube)も同じ道をたどるのかと言えば、ナップスターとは異なるところも多い。

サーバーから削除

技術的な面では、ナップスターのP2P方式は、コンテンツがユーザーのパソコン間を流通するため、違法コンテンツだけを取り除くのは物理的に不可能に近かった。対してユーチューブ(YouTube)は、すべてのコンテンツを自社サーバー上に持っているので、違法なものを削除することは可能だ。コストさえかければ、ある程度の対策は取れそうだ。

テレビ局の削除依頼に応じる

実際、テレビ局などの著作権者から、文書やメールなどで削除依頼を受けた場合、掲載ファイルの削除に応じている。

創業者、ショーン・ファニング氏との違い

また、ナップスターの創業者、ショーン・ファニング氏が音楽業界に対しても挑戦的な態度を取り、真っ向から訴訟で争ったのに対し、ユーチューブ(YouTube)の2人の創業者はビジネスマンの顔をしている。

著作権侵害が続いた背景

ハーリーCEOは、昨年末時点でNBCに対して自ら番組ファイルの削除を打診したことを明かしている。このときNBCの担当者は「判断できない」と回答を保留したといい、NBCから削除要求が来たのはその1カ月以上後だった。著作権侵害が続いた背景には、テレビ局の姿勢が定まらなかったという事情もあったようだ。

広告媒体としての利用価値

テレビ局が戸惑う背景には、ユーチューブ(YouTube)に二つの「顔」があるためだ。ひとつは、著作権侵害コンテンツの巣窟。もうひとつは、プロモーションのための新しいメディアだ。

新作番組のダウンロード販売も

米国のテレビ局は今、番組のオンライン販売に進出中で、アップルコンピュータの音楽販売サイトなどで、旧作や放送済み新作番組のダウンロード販売に乗り出している。もちろん番組を勝手に録画して公開する投稿サイトを放っておくわけにはいかない。

企業のCM(広告)が数百万回閲覧
バイラルマーケティング

しかし、ユーチューブ(YouTube)ほどの影響力を持つサイトとなると、利用価値も大きい。企業のプロモーションビデオやCM広告が投稿され、数百万回閲覧された例も決して少なくない。「ウイルスのように」ユーザーからユーザーへ情報が伝えられる「バイラル(ウイルス型)マーケティング」は、今、インターネットを利用した最もホットなマーケティング手法だ。

専用チャンネルを開設
番組宣伝ビデオの独占提供

結局、NBCは6月27日、削除要請から一転してユーチューブ(YouTube)との戦略提携を発表した。ユーチューブ(YouTube)に専用チャンネルを設けてプロモーションに活用するというもので、番組宣伝ビデオの独占提供なども行う。

ウイルス型ビデオ

NBCのジョン・ミラー最高マーケティング責任者は、発表のなかで「ユーチューブ(YouTube)は、著作権を尊重しながらウイルス型ビデオの力を生かす道を探るのに、完璧なオンラインメディアのパートナーである」と持ち上げた。

音楽ビデオの配信も

さらに8月15日には、大手レコード会社が、ユーチューブ(YouTube)との間で、音楽ビデオを配信する計画を進めていると報じられた。交渉相手には米ワーナーミュージック・グループや英EMIグループなどの名が挙がっている。

主要テレビ局が徐々に削除要請

東京MXが番組を投稿

日本でも、主要テレビ局が徐々に削除要請に乗り出すなか、独立地方局の「東京MXテレビ」が8月末から、番組のひとつを自らユーチューブ(YouTube)に投稿して宣伝に利用するという動きが出ている。

収益はほぼゼロ

ユーチューブ(YouTube)が超えなければならない壁は著作権問題だけではない。実は、膨大なユーザーを集めながら、まだ、ほとんど収益を上げていない。

回線コストは「1日1億円」
動画広告のビジネスモデルへ

1日100万ドル(1億1500万円)超と推定される回線コストに見合うビジネスモデルの確立が急務になっている。「広告を扱えるプラットフォーム技術を開発中」(ハーリーCEO)といい、8月下旬に、動画広告の導入を発表した。

パリス・ヒルトンのPRビデオ

スポンサー付きの動画を、他の投稿ビデオと同等に配信するもので、第1弾は、お騒がせセレブで女優・歌手としても知られるパリス・ヒルトンさんのPRビデオだ。

「グーグルビデオ」「ヤフービデオ」も

一方、ユーチューブ(YouTube)を追って、同種のサイトも続々と登場し、現在、世界で100近くあるといわれる。「グーグルビデオ」(Google Video)や「ヤフービデオ」(Yahoo Video)などの大手のサービスが追随し、日本でもNTTやフジテレビなどが参入している。

NHKや民放の対応
地上波はネット配信を躊躇

動画共有サイトは既に大きな波となりつつある。NHKや民放など日本の地上波テレビ局は、出演者や音楽家など様々な権利者を背後に抱え、インターネット配信を躊躇してきた。

権利関係の整理が急務

その間に海の向こうで実際の利用が進み、その効果の絶大さも明らかになった。「闘う」にしろ、「使う」にしろ、明確なネット戦略の構築と、自らの足元の権利関係の整理へ、速度を上げて対応することが迫られている。